みんなが「美しい」と感じるもの1

実に1年ぶりの更新です.みなさんもう私の事なんか忘れてたでしょう.

忙しかったという以上に生活に余裕がありませんでした.植物の博士になる道のりはまだまだです.

さて,先日気晴らしに本を読みました

ジヴェルニーの食卓

ジヴェルニーの食卓

画家の話,半フィクションのような短編集です.その中で気付いた事を少し.

1つ目の話はマティスの話です.この物語で出てくるのは「マグノリア」となっています.

マグノリア」.よく出てきますよね,色々で.

女性に人気のロクシタンでも「マグノリア」というトワレがあります.

マグノリア」って花はあるのか?(このマティスが描いたように).

答えは「ない」です.

マグノリアは「モクレン科(もしくは目)」の総称です.だからモクレンも,コブシも,シデコブシも,このマティスが描いたとされるタイサンボクも全部「マグノリア」っちゃー,マグノリアです.

では「マグノリア」は分類上どこに分類される植物か?

みなさんの頭の中には「単子葉類」とか「双子葉類」とかそういう言葉があると思います.

分類体系では昔はこういう風に分けられてたんです.植物は単子葉類(一般的に1枚葉で種子から芽が出るもの)と双子葉類(同じく2枚葉で芽が出るもの)に昔は分けられてたんですが,今は実はこの他にも分け方があります.

つまり,その2つのどっちでもない,もっと原始的な植物とみなされているもの.

実はモクレン目ってのもそうなんです.

でも,このモクレン目って大学とかで分類を習った事のある人はちょっと聞いた事があると思いますが,昔植物で一番古いものだとされていたんですが,最近はそうじゃなくなってきています.

DNA解析の技術が発達して昔はオランウータンが人間に一番近いサルだと言われていたけど,今はチンパンジーが常識って言うのと似ています.

では何が現在一番原始的な植物と思われているのか?

この「アンボレラ」という植物です.これは1種1属1科1目です.

昔はクスノキの仲間でしたが,DNA解析による分類が発達してからこれが一番原始的というのが有力な見方です.

もうちょっとマティスの絵を紹介しようと思いましたが,ちょっと長くなってしまったので.

最近は少し精神的に余裕が出てきたので,これからはちょっとずつ記事を書けたらと思います.

マングローブ

おひさしぶりですね.すみません,植物の博士になるには色々多忙な毎日で.

軽い話ですみません.

最近よく企業などの取り組みでも増えてきたので「マングローブ」って単語を耳にしますよね.「○○はマングローブ保全の活動に参加しています」とか.

みんなでも「マングローブ」って何か知ってますか?「マングローブ」って名前の植物があるとかもしかして思ってませんか?

マングローブ」とは実は亜熱帯から熱帯地域にかけて分布する,海水と真水(つまり河の水)が混ざり合う場所にある植物の「総称」です.

ガジュマルもタコノキも,みんな合わせて「マングローブ林」と呼ぶのです.決して「マングローブ」という名前の木が存在するわけではありません.

マングローブの植物は塩水と真水の混ざり合う(干潮の時期には干潟のような状態になり,満潮の時期にはほぼ海水に浸かった状態になってしまいます)という非常に植物にとっては特別な環境に生育しているために,色々な能力を持っています.

一番注目されるべきは「解毒能力」(本当にこう呼ぶかは知りません(すみません)).

つまり,人間もそうですが,過剰に塩分を取り込むと浸透圧で細胞がやられてしまいます.なので,マングローブ植物は非常に高い異物排出能力を持っています.

その主たる役割を果たす部分は「葉」です.

根から吸い上げた塩分を多く含む水から塩分を分離して,葉に蓄え,そして塩分を過剰に蓄えた葉は紅葉するように変色してはらはらと落ちるのです.

そうやってマングローブの植物は体から過剰な塩分を排出しています.

その解毒能力の例をお見せします.

うちは結構日本でも北の方に住んでいるのですが,ガジュマルを育てています.

ある日水をやろうと思って,霧吹きで間違ってリネンウォーターをかけてしまいました(←植物の博士になりたいやつの失敗か?).

これがうちのガジュマル君です.まだ20cmぐらいかなあ?すごく強くてもう5年ぐらい生きています.普通に花屋さんで買いました.

で,ある日気付いたんです.本当にガジュマルは強くて,葉を落とすことすらほぼないのに,葉がどんどん変色している.

これはよく見ると,葉脈から枯れています.

初めはなんでか分らなかったのですが,「あ!あの日のリネンウォーターか!」と気付きました.

リネンウォーターは葉にだけ霧吹きでかけました.

実はガジュマルの葉にある気孔(葉の裏側にある呼吸をする部分)

これはツユクサの気孔の写真ですが,実はガジュマルの気孔はこの10倍ぐらいの密度で存在しています.

つまり呼吸機能が非常に高いのです.

多分葉から大量にリネンウォーターを吸いこみ,そしてそれが維管束(植物の血管)を回り,そして排泄物として維管束(葉脈は葉に存在する維管束です)に蓄積し,毒素のたまった葉を落としたのでしょう.

これがマングローブ植物の力です.

この力と特殊な能力があるので,海水が大量に入り込む環境でも強く長く生きられるのです.

今日はここまでって事で.

植物の博士になりたい人は今が一番忙しいのです.

植物はこの春先〜夏を謳歌しています.謳歌するとこっちの取るデータの数も跳ね上がります.

調査に行ってきます.

ではまた.

桜の続き

お久しぶりです.

トラブルが重なった上に今は調査のための許可書類作りに追われているので忙しさMAXです.

色々な山や林で植物の調査をするのですが,やはり経過観察もあるので囲いを作らせてもらって自分の調査地をガードしたり,少し植物を採らせてもらったりする事はあります.

そういう場合は・・・・

まず,その土地の管理者が誰か突き止めましょう!!

これは結構骨の折れる作業です.探しても探してもわからないことって多いのですよね.一番早いのは現地に行って,緊急連絡先などの看板を発見する事です.私はそうしました.

インターネットではほぼ発見不可能です.

そして管理者がわかったら地主さんを突き止めましょう!!

そう,調査地を設ける場合はこの「管理者」+「地主さん(国有林であれば国)」に許可をいただかないとそこで調査はできません.特に採集という行為をする場合はこれは絶対です.

今年の私の調査地の候補地は3か所.

つまり許可書(それぞれの機関によってフォーマットが異なります)を「管理者」+「地主」×3なので6枚作成せねばならず・・・.

面倒なので現実逃避しています.GW明けまでには作ります.

話はそれましたが.この間の桜の「芽」から出るもの.

違う桜で申し訳ないのですが


こんな風にひとつの芽からふたつ花が出ます.

この後葉が展開するはずだったのですが,家で育てていた切り花だったので葉が出る前に枯れてしまいました.

近所のヤマザクラがまだ雨がやんでも残っていたら写真を撮ってきますね.

まだ「つくしは植物!?」と「本当にみんな「タネ」からスタートするのか?」を書こうと思っているんですけど.

写真が追いつきません.頑張ります.

日本人の魂!?桜(芽分解編)

さ,予告通り桜(ヤマザクラ系)の芽を分解してみましょう.
人さまのものはいけません,許可を取ってから頂いてきましょう.

今ならまだヤマザクラはこういう芽が枝にぷくっと着いているはずです.

なんか何重にも鱗のように茶色い皮が重なっているのがわかりますか?これを枝から取った断面を見ると

なにやら中は緑色で,重なっているのがわかります.

慎重にピンセット


(この程度で十分です)

で茶色い皮を剥いていきましょう.パリパリして剥きにくい時はちょっとぬるま湯でふやかすといいです.で,剥いちゃうと中は

こんな風に緑.何か葉脈のようなものも見えませんか?葉っぱがぐるっと巻きついているような・・・.

じゃあ中身は葉か!

いえいえ,違います.それだけじゃありません.この桜の芽にはもっと色々詰まっています.

通常私はフェザーの両刃剃刀をこういう風にパキっと折って使っています.

片刃だと,ちょっと刃が厚くて扱いにくいので,危ないけど両刃の剃刀を半分に折って使うのが慣れると一番いいです.デザインカッターでもできそうですが,多分刃があれも厚すぎてダメだと思います.

あとはメスか・・・(最近つかってませんが,医療用を1本持っているといいと思います).

で,断面.

お,なにやらぎっちり色々詰まってるじゃないですか.

もっと拡大!!

これは,周りの部分は葉,そして上の方に見える白い粒粒は花になる部分です.

そう,花と葉とセットで全部このひとつの小さい芽に入っているのです.

花のつぼみを想像してください.

ガクの中から花びらが出てきて・・・それからおしべ,めしべって中にありますよね?つぼみもこんな風に切ると同じ構造になっています.これは桜の葉と花の「つぼみ」なんです.

こんな風に植物は色々な時に芽の中身が「入れ子状」になっている事が多いです.この場合は花が咲き終わった葉が中心にあって,外に花,そして周りに先に開く葉.

地下茎の中にも,中心に花,周りに葉,そしてその更に外側に地下茎という構造になっていて,段々展開していくもがあります.

ぎゅーっと小さい「つぼみ」にこうやって色々入っているんです.これは春先の今しか見れません.

実は手が届かなくて断念したのですが(しょうもない理由ですみません),イチョウの芽の中身はもっとすごいことになっています.どんどん今手に入る「芽」を分解して観察してみてください.

その後その芽がどういう順番で展開するのか,花が先か,葉が先か,それとももっと違うものが先に出てくるのか!?

ソメイヨシノはもっと違う構造になっているはずです.両方手に入る人は分解してみてください.

さて,今回カメラはマイクロフォーサーズの45mmマクロを,更に拡大!と言った時は

こういうルーペを使いました.どっちも10倍ですが,下の方が解像度が高く,きれいに見えます.普段はほぼこちらを使いますが,ちょっと小さいので,クオリティが落ちてもいい時は上のを使います.

更に商売道具として

15倍のスケールルーペも持っています.

これだけあれば大体外での観察はできるかな?と思います.

15倍スケールルーペで1万円ぐらいです.

まだまだ早春の植物を解剖していきます.

日本人の魂!?桜(花の寿命)

寝てました.まだ寝ています.

今日のテレビのニュース番組の天気予報で週末の雨は「花をほころばせる」暖かい雨だと,言ってました.

この時期ほころぶ花ってやっぱり桜かな,と思います.

本州でメジャーなのは

ソメイヨシノかな,と思います.公園や学校で見る桜ってほぼこれなんでしょう.

大阪造幣局の桜並木も有名で,352本128品種あると造幣局のHPに載っています.
[http://www.mint.go.jp/sakura/torinuke/sakura_01.html:title=
造幣局のHP]

私も何回か行ったことがありますが,年をとるにつれあの素晴らしさがわかるようになります.

さて,ソメイヨシノが日本人の心をつかむ理由によく「花の寿命の長さ」が挙げられるような気がします.

「花の命は短い」ような・・・.

武士が好んだと言われる家紋に「剣桜」というのがあります.

こういうの.

「武士は潔く散りたい」という想いからとか・・・.

実際ソメイヨシノのひとつの花の寿命ってよく知りません(すみません).

けど,そんなに数ある花の中で短い方ではないということは言えます.

短い例はやっぱり「月下美人

これは,一晩は咲いているイメージですが,実際は1時間ぐらいしか咲いていません.

咲いてすぐにしおれていきます.

サボテンの花の一種です.咲き終わったら軽くお湯にくぐらせて,鰹節と醤油をかけておひたしにするととてもおいしいです(農薬が散布されているものは気を付けてください).

あとは1日で散る花もあるし,実際「潔い」と言えばサザンカやツバキの方がすごいでしょう.

だって花が丸ごと落ちるし.

実は全ての花の起源は「葉」です.

花からたねへ―種子散布を科学する

花からたねへ―種子散布を科学する

こちらの本に詳しく図解で出ています.

そう思うと葉の寿命がその植物の花の寿命にも影響してるかも知れませんね.

で,ソメイヨシノに戻りますが,どうして樹が全体的にあんなに真っ白(あるいは薄いピンク)に見えるかと言うと,花の出る芽の場所と葉の芽が出る場所が同じなので,花が散った後に葉が出てきます.

なので,花が咲いている間には葉が存在しなく,1本の樹に花だけの状態なので,他の花をつける樹よりも花がきれいに見えるのです.

でも,同じ桜でも,ヤマザクラ系の桜は花と葉が同時に出ます.

じゃあ,今の時期に見られる「桜の芽の中」ってどうなっているのでしょう?

次回はヤマザクラ系の桜の今ある芽を分解して中をよく見てみましょう.

ひまわりって?(花のつくり)

すみません,寝てました.比喩とかじゃなくて,毎日眠くて,眠くて寝てました.春眠・・・とかいうやつですかね?

前の「品種」の話でした「品種改良」.きっと専門家の方が読んだら「え?何その原始的な方法.今でもそんな方法をやってると本気で・・・」と思ったでしょう.

はい,その通りです.実は現在ではもっと品種改良の方法は効率的かつ,技術もかなり進歩しています.

でも,それはあまり一般の人にはまだ知らせないほうがいい事実なのかなあ・・・・と思い,あえて一番原始的な方法を書きました.興味のある方はそのまま農学部に進学して育種方面に進みましょう.

さて,ひまわりですが.

大体日本人に「ひまわりの絵を描いて」と言うと

こう描きません?

これって真ん中の部分は?なんで周りと違う「花びら」をしてるんでしょう?

あなたはひまわりの「花のつくり」をよくよく見たことがありますか?

実はひまわりというのは2つの目的で農作物として育てられてきた植物でもあります.

ひとつは「観賞用」.おうちで育てたり,切り花として部屋に飾ったり.

もうひとつは「商業用」.これはスーパーに行くとわかるのですが,「ひまわり油」というのが売っています.ひまわりのタネからは沢山の油がとれるので,油をとる目的として商業用に効率よく油がとれるように花が改造されてきました.

そのふたつの差は?

ひまわりの花は実はこういう「つくり」になっています.

簡単ですが,筒状花という花と舌状花という花,これはひとつひとつ独立した「花」です.それがいっぱい集まって,ひとつの「ひまわり」という「花の集合体」を作っているのです.

ゴッホのひまわりの絵に戻ってみましょう.

よく見てください.ふたつ花があるでしょう?

真ん中が茶色いひまわりと,全部黄色いひまわりが.

茶色い部分は筒状花です.雄しべと雌しべを持つことからわかるように,これは受粉を行い,タネを残せる花です.じつは舌状花はタネを残せない「飾り」です.

だから,タネを沢山残して油を沢山とりたい商業用のひまわりにはこの筒状花が多い品種を用いています.そして今日本では見ることが少ない多重咲きのひまわり,舌状花を多く持つものは観賞用です.

ひまわりは「キク科」です.

キク科にはふたつの名前があります.ひとつは

Compositae

これはそのまま沢山の花の集合体の花であるので英語の「Compose」から来ています.もうひとつは

Asteraceae

これもそのままと言えばそのまま,英語の「Aster(星のような形)」から来ています.まだキク科の学名はどちからでも統一されていないのが現実なので,どっちを使っても間違いではありません.

最近は背の高い,切り花としては扱いにくかったひまわりも品種改良によって短くて,おうちに飾れるサイズのも増えてきました.夏前には花屋さんに並ぶと思います.

あなたも「ゴッホのひまわり」,そしてこの「沢山の花の集合体」である「キク科」の「ひまわり」をよく見てください.

そうそう,余談ですが「品種」.よく知らないシステムですが,登録するときに品種改良した人が好きに名前を付けていいようで.昔「ミセスハシモト」という花を見たことがあります.「ハシモト」さんの奥さんがこのお花のように美しかったのか,何か品種改良された旦那さんに考えがあったのか・・・.

後々残ることを思えばかなり勇気のあったネーミングだと・・・.

じゃあ「ひまわり」の話はここまで.こんな時期はずれな時にすみませんでした.今度はちゃんと季節の花を取り上げますので・・・.

ひまわりって?(品種のはなし)

まずは「品種」から説明しますね.

「品種」ってなんですか?

「園芸品種」とか聞きますよね.なんでしょうね?

たとえば

今はいちごがよくスーパーに出ています.

これは「さがほのか」.

あといちごで有名なのは「あまおう」とか「とちおとめ」とか.

なんか聞いた事ありません?

お米ならもう

なんじゃないですか?

最近は色々ありますけどね,「あきたこまち」「ゆめぴりか」「ほしのゆめ」「ササニシキ」・・・・

こういうのが全部「品種」です.

これって何が違うのよ?というと,これは基本的にそれぞれの都道府県が「品種改良」を重ねて普通のお米やいちごからすごく自分苦労(もう苦労に尽きます)によっておいしかったり,育てやすかったりするものに「少しずつ」「変えた」ものです.

方法はすごく原始的.

「甘いいちごにしたい!」と思ったら,甘くなかったいちごの花とどんどん甘かったいちごの花を受粉させるのです.ただそれだけ.甘くないいちごの花のめしべに,甘いいちごのおしべから取った花粉をひたすら人工的に付ける!それだけ.

これは・・・・,次にいちごの実ができるまではたして甘いいちごができるかわからないし,本当に何年も何十年もかかる作業なのです.だから「苦労」しかないのです.

こういう作業は農業試験場や,時々大学の農学部の先生なんかもやったりします.

で,「じゃじゃーん!できた!あまいいちご!!どの株でもおいしい甘いいちごがこれで安定して収穫できる!!」ってなったらその「品種」を「登録」します.

なんと「登録」すると,さがほのかの場合は佐賀県のいちごですから,佐賀県の人以外は原則何年かは作る事ができません.県がタネを他の都道府県の農家には売らない決まりなのです.

特許ですよね,いわゆる.

今は「コシヒカリ」は他の都道府県からも出ていますが,あれは特許権が切れたのです.

そういうのが「品種」です.

でも最近「遺伝子組み換え」ってよく聞くけど,遺伝子組み換えたら簡単にできるんじゃないの?と思いません?

こういう風に書かれているのよく見ますもんね.

あれは「品種改良」とは全然違います.ので,また今度.

結局「ゴッホのひまわり」もひとつしかない「ひまわり」の「品種」のひとつです.

言われているのは「ソレイユ サンプル グラン」と「ソレイユ ジュアン」という「品種」だと言う事です.

長くなったので,次は「ひまわり」の花の造りでどう「品種」が分かれるのか?その関係を見てみましょう.

→つづく